IMF・世界銀行年次総会

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まさに、世界ビジネスの最前線。帝国ホテルが日本のおもてなしを発信した世界最大規模の国際会議。

まさに、世界ビジネスの最前線。帝国ホテルが日本のおもてなしを発信した世界最大規模の国際会議。

2012年。東京で、IMF・世界銀行年次総会が開催された。
世界でも最大規模の会議であると同時に、東日本大震災からの復興を世界へアピールする使命を担う歴史的大舞台であった。
当初の予定地で開催ができなくなったため、日本が開催に名乗りを上げた。
準備期間はわずか1年半という状況で、財務省からメイン会場としての打診を受けた。
帝国ホテルには、6日間の会期中、各国の財務大臣や中央銀行総裁といった要人をはじめ、
公式参加の188ヶ国から約1万人、さらには警備や報道機関の関係者を含めると、約2万人もの人々が集まった。

世界の金融界の視線が注がれるこの大舞台で、帝国ホテルが全社をあげて果たした役割とは。

すべてのスタッフに、国を代表しておもてなしをするという、使命感が宿っていた。

すべてのスタッフに、国を代表しておもてなしをするという、使命感が宿っていた。

左から
肥尾(営業部宴会サービス課)/宴会サービス担当
佐藤(営業部支配人)/事務局担当
黒川(調理部ベーカリー課シェフ)/調理(ベーカリー)担当
田村(レストラン部料飲二課ルームサービス)/ルームサービス担当
濱田(営業部営業一課)/宴会手配担当
岩武(企画部支配人)/V.V.I.P.接遇担当

1890年11月3日、「日本の迎賓館」の役割を担って誕生して以来、帝国ホテルでは、政界や財界、さらには海外からの賓客を迎えるホテルとして、数多くの国家的行事が開催されてきた。IMF・世界銀行年次総会が東京で行われると決まり、候補会場としての打診があったのは、日比谷という地に立つグランドホテルという設備と、120年を超え受け継がれてきた伝統、経験豊かな人材への評価があったからとも言われている。
事務局担当を務めた佐藤は、「通常は、総会まで3年という準備期間が用意されているのですが、お声掛けいただいた時にはすでに1年半前になっていました。財務省の方々から『帝国ホテル以外に考えられない』というお話をいただき、そうおっしゃっていただけるのであればやるしかないと思いました。平成元年にベルマンとして入社をした私は即位の礼(※注釈1)など国家的行事の経験はありましたが、今回程大規模な行事は初めてで、お迎えするVIPの数、セキュリティの厳重さや準備する事柄の多さ、全てが初めて経験する事でした。しかし、『帝国ホテルのいつものサービスを行ってください』というお言葉もいただき、我々の経験と力があれば必ず成功すると思いました。」と振り返る。
日々の業務とは異なり、国をあげて開催される今回の様なプロジェクトでは、現場スタッフだけではなく、普段管理部門に従事しているスタッフも接客にあたる。帝国ホテルのスタッフは、マーケティングや企画開発といった管理部門の社員も含め、全てのスタッフが接客の研修を受けたプロのホテルマンでもある。職務を超えて、全員が助け合う文化が継承されてきたことが、いざという時に地力となって表れる。佐藤はプロジェクトの成功のために、各部門との連携に奔走した。

※1…天皇が践昨(せんそ)後、皇位を継承したことを内外に示す儀典。最高の皇室儀礼とされる。

「さすが帝国ホテル」と言われるために、全スタッフで共有した現場意識。

「さすが帝国ホテル」と言われるために、全スタッフで共有した現場意識。

毎週の定例会議では、各部門のリーダーからさまざまな課題が上げられた。まず代表団のオフィススペースの確保。新たな会議場を建設するような土地がない、都心部での開催だったため、帝国ホテルではタワー館と本館の一部をオフィスとして提供することになった。「開催2週間前からタワー館と本館合わせて約500の客室をオフィスにつくり替えるため、ベッドを撤去し、オフィス家具やコピー機を搬入し、無線のネットワークを整備しました。ビジネスの最先端で働くお客さまに、ご満足いただくためにはどうすべきか、何度も議論しました」と佐藤。タワー館の客室すべてがオフィスとして利用されたのは、帝国ホテルはじまって以来のできごとであった。
また、会期中は関係者のオフィスの出入りが多くなるためエレベーターの不足が懸念された。そこで、サービス担当者から、普段業務用として使用しているエレベーターをリニューアルし、お客さまに利用していただこうという案が出され、実現した。「帝国ホテルらしさとは何か」「さすが帝国ホテルといわれるために何が必要か」。一人ひとりが考え、発言し、動く。それが自然とチームでも共有される。大規模プロジェクトにおいて力が発揮されるのは、お客さまをお迎えする喜びと、大きなビジネスに挑戦する熱意を、全スタッフが持っているからである。
そして、ルームサービス担当、調理担当、宴会手配担当、宴会サービス担当、V.V.I.P.(最重要顧客)接遇担当、その他ありとあらゆる部門のスタッフが一丸となって準備を進めてきた、一年半の集大成が始まった。

難題や予定変更にも臨機応変に対応する6日間。すべては「基本プレー」に徹することから。

難題や予定変更にも臨機応変に対応する6日間。すべては「基本プレー」に徹することから。

宴会手配を担当したのは、当時入社6年目の若手営業担当者濱田であった。「会期中の6日間には、大小約80件の会議が予定されていたため、事前に約20ヶ国40人もの担当者との打ち合わせを重ねました。」と説明する。「国際会議ですので、お越しになるお客さまは実に国際色豊かでした。宗教の違いによって召し上がれない食材もありますので、お食事やドリンクを用意するうえで、そのような文化的背景を配慮することがいちばんの課題でした」。しかし、開催3日前になっても情報収集ができていないことや、決定していたメニューが直前に変更されるという課題が続いた。そのような状況でも濱田は「世界中のお客さまに日本人のきめ細かなおもてなしをご提供したい」という強い信念を持って業務に取り組んだという。
また、宴会サービス担当の肥尾は「通常では、1ヶ月前には宴会の内容が確定しているのですが、当日の変更なども相次ぎ、スタッフの要員調整は大変でした」と語る。そうした奮闘は総会事務局にも伝わっていた。「途中からはニックネームで読んでいただくなど、親しみを持って接していただけました」。
「ルームサービスのメニューも、当日の変更が多くありました。事前にご注文の予約表をお渡ししていましたが、皆さまお忙しく、ご注文のご連絡がないケースも多々ありました。また、クレジットカードのみの対応を予定していましたが、実際は現金でお支払いいただく方も多く、毎日夜中まで対応しました」と語るのは、ルームサービスを担当した田村だ。
「オフィスにいらっしゃる約2000人の関係者の皆さまに、つねに最高の状態のパンをお召し上がりいただきたい」と、気を引き締めて臨んだ調理担当の黒川は、「注文の数は予想を遥かに超えていました。毎日約2万個のパンを焼き続けるために、夜中の3時からオーブンをフル稼働させました」と語る。
難しい依頼や急な予定変更も重なり、職場に何泊もするスタッフも多数いた。そして、普段とは異なる業務を率先して手伝うスタッフも目立つなど、そこにはスタッフ全員の誇りがあった。いつも通りの丁寧なサービスを一つひとつ行う。それこそが「帝国ホテルらしさ」なのだ。「全スタッフに共通していたのは、基本プレーを貫くこと」と帝国ホテルの面々は口を揃える。

帝国ホテルとして獲得したこと、成し遂げたこと。そして、未来につながる伝統と革新の財産。

帝国ホテルとして獲得したこと、成し遂げたこと。そして、未来につながる伝統と革新の財産。

15年ぶりにV.V.I.P.(Very Very Important Person)の接遇を担当することになった岩武は、分刻みのスケジュールに追われながら、要人のゲストサービスを担った。「最重要のゲストということで、何人ものスタッフが連携して接遇しました。移動時には、当初予定していたルートから変更になることもありましたが、スタッフの臨機応変な対応で、滞りなく目的場所へご案内ができました」。警護担当者から「君がいるところに連れていけば安心だ」とも言われたという。文字通り「国を代表している」という使命感が、岩武だけでなく、各部門のスタッフの一挙手一投足ににじみ出ていた。
宴会サービス担当の肥尾は、会議終了後にある要人から「素晴らしいサービスだった」との言葉を受け取った。パンを焼き続けた調理担当の黒川は直接「おいしかった」とゲストに声をかけられた。さまざまなシーンで生まれたさまざまな「ありがとう」は、それを言われた当事者はもちろん、そこに連携しているすべてのスタッフに向けられた言葉でもあっただろう。そして、総会が終了し、要人たちがホテルを出発する際のこと。スタッフ約200名が心を込めて拍手でお見送りをしていると、V.V.I.P.のゲストが足を止められた。「私たちスタッフに向かって感謝のスピーチをくださったのです。私にとっては初めての出来事で驚きましたし、嬉しさで涙があふれました」と、岩武は語る。
長い準備期間と、怒濤の6日間。この大きな国際会議を経て、帝国ホテルスタッフは何を獲得し、何を成し遂げたのか。「総会開始前は非常に緊張していましたが、始まってみると、全スタッフが必ずいつも通りのサービスを行うだろうという安心感を感じました。そして、全スタッフがサービスにも従事することが出来るという、当社の人材の素晴らしさを、改めて実感しました」と、事務局担当の佐藤は答える。スタッフのほぼ全員がサービス担当として携わった緊張感あふれる大舞台。求められるおもてなしのレベルも今までとは大きく違ったと言えるだろう。それを全てのスタッフの現場力と団結力で乗り越えた達成感は、それぞれの胸に深く刻まれ、そしてその経験は、10年後、20年後の帝国ホテルの未来に、大いなる糧となるはずである。



※所属部署は取材当時のものです。