CHAPTER 07 共創

受け継ぐために、ひと皿は更新されていく

長い時間をかけて磨かれてきた帝国ホテルの伝統が、京都の季節と静かに重なり合います。
帝国ホテル 京都の料理長・今城浩二が向き合っているのは、京都の伝統と二十四節気がもたらす移ろい、そして生産者の確かな思い。
その気配をすくい取り、料理として立ち上げ、お客様の目の前に届けていく。
そのひと皿ひと皿は、伝統と季節を重ね合わせた体験として、心に刻まれていきます。

足すのではなく、削ぎ落とすという選択

「美しい料理とは何だろう、と考えると、おそらく引き算の料理かな、と思っています」料理長の今城は、そう静かに切り出しました。
派手な装飾や技巧を重ねることではなく、素材を主役にするために何を削ぎ落とすか。その判断の積み重ねが、料理の輪郭を決めていくのだと言います。
「素材の味を生かすために、本当に必要な素材だけを残す。本当に必要な工程だけを重ねる。そのように組み立てていく感じです」

料理は、料理人の自己表現である前に、素材を正しく伝えるための翻訳作業であり、その素材の向こう側には、必ず“人”がいます。
「生産者の思いを料理に表して、それをお客様に届けたい。その上で、期待を超えることをしていきたい」
今城の料理観は、技術論ではなく、人と人の関係性から立ち上がっているのです。

小学生の土曜日から始まった料理の原点

「料理を始めたきっかけは、そんなに特別なことではないのです」
そう前置きして、今城は少年時代の話を始めます。
「小学校の頃、ある土曜日のお昼に、母親からお金を渡されて、『これでご飯食べておいで』と言われました」
外に食べに行くこともできた。けれど、選んだのは“自ら作る”という選択でした。

「ただ買ってくるのではなくて、自分で作ってみようと思ったのが、最初の料理のきっかけです」
その延長線上にあったのは、今振り返れば無謀とも言える挑戦でした。
「チキンブイヨンを作ってみようと思ったのです。家の台所で、買ってきた鶏ガラと野菜を入れて長い時間をかけて作りました。結果、母親に怒られてしまったんです。10時間くらい、ずっとガスをつけっぱなしでしたから(笑)」
火を止めず、ただ鍋を見守り続ける時間。それでも、その体験は確かに身体に残りました。時間をかけること。手を動かし続けること。料理とは、そういうものだという感覚が、この頃すでに刻まれていたのです。

より高みへと向かう選択

ナンバーワンのホテルで料理がしたい。その思いは、若い頃から変わりませんでした。
「調理学校でも就職活動の時期になると『ナンバーワンのホテルに入りたい』という思いはどんどん強くなっていきました。いくつかの選択肢を検討する中で、帝国ホテル 大阪がちょうど開業するということで、タイミングもあり、もうここしかないと、強く思いました」

決断は早かったと言います。
「不安よりも『やってみたい』『やりたい』。その気持ちの方が強かったです」
帝国ホテルという舞台を選んだ理由は、憧れだけではなく、覚悟でもありました。
そして、帝国ホテル 京都で料理長を務める話が持ち上がったときも、その姿勢は変わりませんでした。

「即答です。『やりたいです』と。迷いはありませんでした。京都は、本当に良い食材が多い。そして、それを活かしたいと思ったのです」
京都は、歴史があり、文化があり、食に対して真摯に向き合う方々が暮らす場所です。それでも今城は、その緊張感を前向きに受け止めていました。
「京都で料理をするということ自体が、挑戦だと思いました。でも、だからこそやりたいと思ったのです」

生産者の思いを、ひと皿の上へと載せる

就任が決まってから、何度も京都に足を運んできました。それは、単に食材を見るためだけではありませんでした。
「中央市場に行ったり、生産者のところに行ったり、大原の朝市にも行きました。実際に食材を見て、話を聞くことが大事だと思っています」

どの季節に、どんな表情を見せるのか。どういう思いで育てられているのか。
「生産者の思いを知り、それを料理に表現して提供したいと思っています」
料理は、厨房の中だけで完結するものではありません。畑や市場、作り手の現場から、すでに物語は始まっているのです。

伝統だけでは、革新は起こりえない

「帝国ホテルには、135年続く味がある。その中で変えてはいけないものと、変わっていくものがあると思っています」
その考えを象徴するのが、薪火と炭火での調理を特徴とするオールデイダイニング『弥栄』の弥栄バーガーです。
「デミグラスソースや、パティの配合は、帝国ホテルでずっと培われてきた味です。これは、守り続けている部分です」
そこに、京都ならではの要素を加えます。
「九条ネギを入れています。ネギの食感と、マヨネーズのまろやかさ、黒七味の辛味が合わさります。伝統の味に、新しい要素を重ねていくイメージです。デミグラスのまろやかさと合わさり、ジューシーで、とても美味しいのです」
今城料理長は、こう続けます。
「伝統だけでは、革新は起こらないと思っています。ただ、変えすぎても意味がない。少しずつ、新しいことを取り入れて、期待を超えていきたいです」

帝国ホテル 京都だからできるフランス料理を模索する

一方、10席のカウンターと8席の個室で構成される帝国ホテル 京都のフランス料理『練』では、“二十四節気”をテーマに据えています。
「一年には24の季節があります。その一つひとつを、フランス料理で表現したいと思っています。そういう意味で、季節感はとても大切にしています」
そう語りながらも、今城が繰り返し強調するのは、判断基準の明快さです。
「しかし、基準はあくまで明快です。やはり、食べておいしいかどうかが一番大切だと考えています。だからこそ、食材は机上では選びません。生産者を訪ね、実際に味わい、本当においしいと感じたものだけを使いたい」
そこから、「どうしたら、よりおいしくなるのだろう」という料理人としての思考が始まるのです。

料理と人の距離が近づく、時間を忘れる場所

「3時間という時間を、長かったな、とは思ってほしくないです」
理想とする体験について、今城はそう語ります。
「『もう3時間なの?』と思ってもらえたらいいですね」
普段は厨房の奥で行っている仕込みや仕上げを、あえて目の前で見せる。
その一つひとつにも、理由があります。
「真剣な中にも、笑顔は必要だと思っています。例えば、料理を出す瞬間の表情や、会話。そのようなところも大事にしよう、とみんなで話しています」
料理だけでなく、流れる時間そのものを含めて体験として届けたい。そうした姿勢が、言葉の端々ににじみます。

シグネチャーメニューは神山(かみやま)椎茸

料理の構成についても、今城は具体的に語ります。
「京都に来ることが決まったとき、絶対に使いたいと思った食材がありました。シグネチャーメニューとなる神山椎茸です。徳島県産の神山町で生産され、その中でも直径8.5センチ以上の『極』を使っています。傘の部分には亀岡牛の生ハムを敷き、中には椎茸の軸とマッシュルームをみじん切りにしたデュクセルを詰め、カットしてお出しします」
仕上げには、弥栄会館の外壁を彩っていたテラコッタをモチーフにしたチュイール。料理と建築、土地の記憶がひと皿の上で重なります。

支えることで、受け継がれていくもの

こうしたひと皿の背景には、料理の技術だけでなく、人とどう向き合うかという姿勢があります。今城は、自らが前に立ち続ける料理長でありたいとは考えていません。むしろ、若い料理人たちが一歩踏み出すための土台を整えることに、意識を向けています。その眼差しの先には、次の世代への大きな期待があります。
「後輩たちのチャレンジを、後押しするサポート役でいたいと思っています。いつか、帝国ホテル 京都から、日本一、世界一になるような料理人が生まれてほしいです。彼ら彼女らには、本当に期待しています」

座右の銘を尋ねると、詩人・相田みつをの言葉が返ってきました。
「一生勉強、一生青春、です」

学び続けることを楽しみながら、歩みを止めない。その姿勢は、料理とサービスを語る言葉の端々に表れています。

そう語りながら、今城は静かに言葉を続けます。
「期待を裏切らず、期待を超えることを、続けていきたいと思っています。ぜひ、楽しみにしていてください」

花街文化の晴れ舞台・歌舞練場に寄り添って、
祇園の町に憩いを届けたもうひとつの舞台、弥栄会館。
堂々と聳えるその姿も、この地で愛されてきた記憶も失うことなく、
これからも誰かの物語を綴る舞台であり続けるために。

「弥栄会館」は「帝国ホテル 京都」へ。

令和八年、ふたたび開場。次は、あなたの寛ぎの舞台へ。

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