サステナビリティ人的資本と多様性
多様な人材の能力を最大化し次の100年を築く
1890年11月3日、日本の「迎賓館」としての役割を担い誕生した帝国ホテル。
国際的ベストホテルを目指し、ここで働く私たちには、次の100年、さらにその先の100年に向けて、このブランドを受け継ぎ、未来を切り拓いていく使命があります。帝国ホテルグループは「人的資本経営」を実現するために、多様な人材の能力の最大化を図り、様々な取り組みを進めています。


「人的資本と多様性の推進」における5つのテーマ
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1.多様性を組織の強みにする風土改革
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2.働き方改革
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3.人材育成
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4.健康経営
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5.多様な人材の活躍
人材育成方針・環境整備方針
人材育成方針
事業の持続的な成長や発展の原点は「人」です。
当社は、企業価値向上の要諦は優秀な従業員を育成し成長を促すことにあり、顧客満足度の向上は多様な人材が年齢、性別、国籍を問わずそれぞれの強みを発揮することでもたらされると考えております。今後も企業価値と顧客満足度の継続的な向上を目指すにあたり、下記の方針に基づく人材育成を進めてまいります。
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1.帝国ホテルの創業の精神や伝統を理解し、最高のサービスや商品を提供できる人材であること
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2.持続的な発展に向けて、時代の潮流や新たな技術等を当社事業に的確且つ効果的に反映しながら、イノベーションや変革を実現する人材であること
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3.様々な文化的背景や多様な価値観を有し、多様性を受容、活用して当社グループの発展に繋げる人材であること
環境整備方針
一人ひとりの成長が企業の発展にも直結するため、従業員が自律的に自身の能力向上に取り組める制度を整えています。また、多様な従業員が優れたサービスや商品を提供し続けるために、安心して働き続けられる環境の整備にも取り組んでいます。
1.自律的な能力向上に向けた環境整備
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①語学研修や海外留学支援の実施
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②自己啓発(資格取得や通信教育受講)費用援助制度整備
2.安心して働き続けられる環境整備
- ① 職場環境
セクシュアルハラスメント、パワーハラスメント、マタニティハラスメントなど、いかなるハラスメントもない職場を目指し、研修や社内周知を通じた従業員に対する啓発活動を進める。
- ② 両立支援
法定以上の休業日数等を制度化し、仕事と育児・介護との両立を支援する。また、両立支援の意義や制度内容への従業員の理解を深めることを目的に研修や社内周知を行い、制度を利用しやすい環境を整える。
- ③ 健康経営
健康経営宣言を策定し、従業員のフィジカル・メンタル両面の健康増進に取り組む。
指標・目標値
指標 | 目標値 | |
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育成 | 無期雇用従業員一人あたりの研修費 | 2027年度までに2018年度比+30% |
流動性 | 離職率 | 2027年度までに2018年度比-20% |
ダイバーシティ | 採用した従業員に占める女性従業員割合 | 毎年50%以上 |
男女の平均勤続年数差異 | 2027年度までに4年未満 | |
障がい者雇用率 | 法定雇用率以上の水準を維持 | |
その他 | 外国への派遣人数 (海外ホテルでの研修や国際的コンクールへの従業員出場等) |
2027年度までには2018年度比+50% |
目標・実績
目標 | 2023年度実績 | |
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女性活躍推進 | 女性管理職数を2027年4月末までに20% | 77人(+1) 17.3%(+0.9pt)(2024年4月1日時点) |
育児介護支援 | 男性育休取得者数を2027年4月末までに75%(当初の目標を達成し上方修正済) | 14人(±0) 53.8%(+5.5pt)(2024年3月31日時点) |
障がい者雇用 | 障がい者雇用数を法定雇用率2.30%以上 | 2023年度時点で2.6%(±0)達成(19年連続で維持) |
女性管理職者数・育児休業者数
女性管理職者数
2016年 | 2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | 2024年 | |
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人数(人) | 47 | 52 | 53 | 55 | 54 | 59 | 67 | 73 | 77 |
割合(%) | 11.8 | 12.7 | 12.6 | 13.1 | 12.8 | 13.5 | 15.1 | 16.4 | 17.3 |

育児休業者数
2015年度 | 2016年度 | 2017年度 | 2018年度 | 2019年度 | 2020年度 | 2021年度 | 2022年度 | 2023年度 | |
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男女合計(人) | 27 | 25 | 34 | 21 | 41 | 31 | 37 | 38 | 38 |
女性人数(人) | 26 | 21 | 29 | 17 | 32 | 22 | 23 | 24 | 24 |
男性人数(人) | 1 | 4 | 5 | 4 | 9 | 9 | 14 | 14 | 14 |
男性取得率(%) | 2 | 9 | 10 | 7 | 20.9 | 23.1 | 33.3 | 48.3 | 53.8 |

役員メッセージ
帝国ホテルは「人こそ全て」と言える会社です。従業員の皆さんが心身ともに健康で生き生きと働けることが、良いサービスや商品にもつながります。これこそが「人的資本経営」の目的であり、当社の重要な経営課題です。全国的にも増加傾向に あるメンタルヘルス不調者に対しては、ストレスチェックや職場復帰支援プログラムを導入し段階的に支援しています。
代表取締役常務 SDGs推進担当 徳丸 淳
ダイバーシティ推進
帝国ホテルグループでは、ダイバーシティ推進を中長期的な重点課題の一つに位置づけ、多様なライフスタイルの従業員が自分らしく最大限の能力を発揮し、「多様なおもてなしを生み出し、すべてのお客様に愛される企業」を目指し、推進しています。
女性の活躍推進
「2027年4月末までに女性管理職割合20%」の目標を掲げ、積極的に女性管理職の登用を行っています。女性のキャリアアップ支援として中堅層の女性従業員を対象とした「リーダー育成研修」の実施や「キャリア相談窓口」の継続開設などの取り組みの結果、2024年4月には女性管理職割合が過去最高の17.3%に達しました。2023年4月には生理休暇を『エフケア休暇』への呼称変更や「配偶者転勤帯同制度」を導入するなど、女性が安心して働き続けられるよう制度改定を行いました。また継続的な取り組みが評価され「えるぼし」認定マークを取得しています。
(右)女性活躍推進認定マーク「えるぼし」2019年取得

ワークライフバランスの推進
育児支援
当社では、育児休業を子が3歳の年度末まで取得可能とし、復職後も子が中学校就学前まで短時間勤務や短日数勤務(週3日勤務あるいは週4日勤務)を取得できるなど、法律を上回る制度を多数設けています。2019年に在宅勤務制度を導入して以来その利用実績は400名を超え、また2021年1月には育児、看護・介護休暇を30分単位で取得可能とする制度の拡充を行い、柔軟な勤務形態を選択できるようにしました。「スマートワーク通信」を人事部より定期的に発信することで、従業員への周知も図っております。
また、女性のみならず男性従業員の育児休業取得促進にも注力しています。その結果、2023年度の男性取得率は過去最高の53.8%に達しました。啓発活動としては、好事例などを紹介する「ダイバーシティ通信」を定期的に配信しています。
介護支援
無料外部相談窓口のサービス提供や定期的な介護セミナーおよび個別相談会を実施しています。
(右)介護支援認定マーク「トモニン」2017年取得

外国人従業員活躍推進
外国人従業員間の社内ネットワークや入社前外部研修受講機会の提供、職場の理解促進策を実施する等、外国人従業員にとっても働きやすい環境づくりを目指しています。現在は営業部門、宿泊部門等にて主にアジア圏の従業員が活躍しています。
障がい者雇用促進
身体・知的・精神に障がいのある人の雇用促進に積極的に取り組み、多様な職域において活躍できる職場の環境整備を進めています。当社の2023年度末時点の障がい者雇用率は2.6%と法定雇用率(2.3%)を上回っており、2006年度以降、法定雇用率を達成しています。聴覚障がいの従業員が実演者となり、接客に役立つ基礎手話の研修動画を製作し、社内デジタルサイネージに動画配信しました。挨拶などの手話を通じて従業員間のコミュニケーション体制の構築、聴覚障がい者に対する理解促進とお客さまへのさらなるサービスの向上を図りました。
健康経営
健康経営宣言
帝国ホテルでは「中長期経営計画2036」において“人を原点とする帝国ホテルブランドをより進化させる”ことを目的としており、健康経営は重要な経営課題の一つに位置付けております。
1890年の開業以来、従業員一人一人がお客様のニーズを理解し、期待以上のサービスを形にすることで帝国ホテルは進化してきました。これからも進化を続けられるよう、従業員の健康維持・増進に取り組んで参ります。
従業員の健康はモチベーションや生産性の向上を通じて組織の健康につながり、最終的にはお客様へのよりよいサービスに結び付くと考えております。
代表取締役社長 社長執行役員 風間 淳
体制
代表取締役社長を最高責任者とし、人事部が中心となり、労働組合、健康保険組合、産業医、看護師らが一体となって当社従業員の健康を維持・増進する取組みを推進しています。

健康関連の最終的な目標指標
ホテルは24時間、365日稼働しています。職場によっては泊まり勤務や深夜時間帯の勤務もあることから、従業員の生活は不規則になりがちであり、心身への負担が大きいこともあります。コロナ禍を経て、お客様へ提供するサービスや商品の在り方が変わったことから、従業員が本来持つパフォーマンスを発揮できる健康状態でいられるよう、下記の指標を設定し、健康経営を進めてまいります。
2020年度 | 2021年度 | 2022年度 | 2023年度 | 2024年度 (実績値) |
2024年度 (目標値) |
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生活習慣(脂質の有所見率/%) | 50.6 | 55.3 | 39.8 | 34.1 | 集計中 | 30以下 |
ワークエンゲージメント※1 | - | - | - | 2.7 | 2.7 | 2.8以上 |
アブセンティーズム※2 (延所定労働日数に対する休職率/%) |
- | - | - | 0.60 | 0.89 | 0.6以下 |
プレゼンティーズム※3 | - | - | - | 3.8 | 3.9 | 3.8以上 |
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※1ワークエンゲージメント:新職業性ストレス簡易調査票の「仕事をしていると活力がみなぎるように感じる」,「自分の仕事に誇りを感じる」2問の平均点 ,ストレスチェックの追加アンケートとして実施(5点満点高いほど良い)
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※2(健保組合の傷病手当金給付延べ日数÷在籍者の延所定労働日数)×100で算出, 在籍者数:2,191名 (2023年度末) および2,347名(2024年6月末)
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※3『WORKPLACE OUTCOME SUITE(WOS)』を構成する因子の中で、「プレゼンティーズム」を測定するための5設問をストレスチェックの追加アンケートとして実施(5点満点高いほど良い)
取組み内容と成果
生活習慣の改善に向けて
- 健康オンラインセミナー
喫煙・飲酒・ストレスへの対応の3点をテーマとしたオンラインセミナーを動画配信しました。
成果:視聴人数590名、満足度84%
- 健康測定会開催(じぶんスキャン)
従業員が自分自身の身体についての理解を深めるため、体組成分析や筋力測定の機会を設けました。
測定結果に基づいた専門家のアドバイスをその場で受けることで、生活習慣の見直しにもつなげます。
成果:参加人数193名、満足度91.4%

- 従業員食堂でのヘルシーメニューの提供
当社の従業員食堂は、帝国ホテル 東京・帝国ホテル 大阪・上高地帝国ホテルの3拠点とも自営化しており、食事の提供だけでなく従業員の健康管理やコミュニケーションの場の機能も担っています。 自営である点を活かし、帝国ホテルの料理人が考案したヘルシーメニューを従業員のみならずパートナー企業の皆さまにも提供しています。その取り組みの結果、2024年8月1日に「健康な食事・食環境(通称:スマートミール)二つ星認証」を取得しました。
成果:2023年度食イベント(3回)実施、喫食数:延べ2707食、満足度:85.7%、従業員の声:「昼食の時間が楽しみになった」「野菜が多く入っていて食べ応えがあった」

- 禁煙支援
喫煙のリスクや禁煙の方法等に関する動画セミナーの配信や、卒煙に関するポスターを社内で掲示しております。
帝国ホテル 東京においては建て替えを予定していることから、喫煙室の縮小を検討しています。
成果:動画視聴人数 236名
メンタルヘルス向上のために
- ストレスチェックの更なる活用
全従業員を対象に実施しているストレスチェックにおいて、定点観察できる仕組みづくりの観点より、プレゼンティーズムやアブセンティーズムに関する質問事項を増やしました。
従業員の現状把握に留めることなく職場へ分析結果をフィードバックし、高ストレス者が多い部署は改善に向けてのアクションプランシートを作成し、更なる職場環境の改善に努めています。- メンタルヘルス研修の実施
従業員が自分のストレスに気付き予防対処するためのセルフケア(在宅勤務や一人暮らしに置いての心得なども含めた内容)と、管理職が職場のメンバーの異変に対処するためのラインケアをテーマに、研修を実施しています。
2021年度実施時には72%だった受講率も、従業員の健康リテラシー向上を目的とした各種施策を実施した結果、2023年度には受講率が100%になりました。
成果:参加人数2,201名、受講率100%- ハラスメント研修の実施
従業員のハラスメントに関する知識と理解を向上させ職場環境をより整備するため、セクシャルハラスメント、パワーハラスメント等に関するハラスメント研修を全従業員を対象に実施しています。
成果:参加人数1,982名、受講率98.2%(2023年度実績)- 相談体制の確立
健康に不安がある従業員のために、社内外の無料相談窓口を設置しています。
より働きがいのある企業として
- 在宅勤務制度の拡充
ワークライフバランス推進のため、必要なデバイスの貸与や業務の効率化、ペーパーレス化を進め、在宅勤務制度を拡充しています。
成果:制度利用者数423名(2023年度実績)- 育児のための就労制度整備
育児休業は子が3歳に達した年度末まで取得可能とし、育児を事由とする短時間勤務制度を子が中学校入学時期まで利用可能としております。
また、男性従業員による育児休業取得の促進にも努めております。
成果:制度利用率 女性従業員100% 男性従業員53.8%(2023年度実績)- 介護のための就労制度整備
介護休業の期間は、被介護者1名につき通算して1か年以内を限度として取得可能としております。
成果:制度利用者数 1名(2023年度実績)- 積立有給休暇制度の拡充
毎年付与される年次有給休暇のうち、失効した分の積立制度があります。
取得事由には私傷病や育児、介護の他に、つわりや災害地域での復旧支援活動なども含まれます。
成果:制度利用者数130名、延べ日数1,729日(2023年度実績)制度利用者数68名、延べ日数1,955日(2022年度実績)- 労働安全衛生委員会の開催
当委員会では従業員の安全および衛生の促進を図ることを目的に、人事部長や産業医、看護師・衛生管理者のほか、労働組合代表等が出席し、毎月一回以上審議をおこなっております。
審議内容には健康経営に関する取り組み、時間外勤務や労働災害の状況など、現状の共有や課題の確認等があります。
成果:開催回数12回(2023年度実績)
自社従業員を超えた健康経営推進に関する取り組み
当社は取引先に対しても健康経営および労働安全衛生に取り組むことを推進し、その状況を定期的に把握するよう努め、その方針を以下の文書において公表、運用しております。
- サステナビリティ調達方針
取引先とともに持続可能で責任ある調達を推進するため、グループ全体を対象に調達方針を策定しました。国際連合や経済産業省のガイドラインとパートナーシップ構築宣言を踏まえ、品質管理や公正・公平な取引はもとより、地球環境や動物福祉への配慮、人権尊重などといった、ホテルや飲食業ならではの視点を加えて12の項目を定め、運用しています。
- パートナーシップ構築宣言
一般社団法人日本経済団体連合会・会長、日本商工会議所・会頭、日本労働組合総連合会・会長および関係大臣(内閣府・経済産業省・厚生労働省・農林水産省・国土交通省)をメンバーとする「未来を拓くパートナーシップ構築推進会議」の趣旨に賛同し、「パートナーシップ構築宣言」を公表しました。
従業員食堂を自営化
従業員満足の向上や人材育成の推進ならびに人材の活用、食品ロスの削減など、SDGs達成に貢献する取り組みの一環として、上高地2020年4月、大阪2021年4月、東京は8月より業務委託をしていた従業員食堂を自営化し、運営を開始しました。
調理スタッフ自らが発案・開発したメニューを提供できる場とし、モチベーションの向上を図るとともに、売上や原価管理など多岐にわたる業務を経験させ、広い視野を持った人材を育成しています。また、従来、廃棄されているような端材や、販売しきれなかった商品をメニューに活用することで、現在全社的に取り組んでいる食品ロスの削減をさらに推進しています。また、東京・大阪の従業員食堂における電力消費に伴うCO2排出量を、100%カーボンオフセットしています。
日常的にサステナブルな取り組みに触れる場を設けることで、従業員のSDGsに対する意識の向上を図ります。


研修や海外留学の実施
従業員のキャリア支援のための研修の実施や、通信教育制度での自己啓発支援、国際的視野を持ったスタッフを育成する海外留学制度など、公平なキャリアアップのための支援を行っています。

福利厚生の充実
従業員の健康増進とリフレッシュのために、主に以下の通り福利厚生の充実を図り、施策を実施しています。
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リラクゼーション・ルームを完備:「あん摩マッサージ指圧師」の資格を有する専任のスタッフが、日々の仕事の疲れを癒しています。2024年度は眼精疲労に特化した新メニューを用意し、先着順でアイマスクの配付イベントも行いました。
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サークル活動:従業員が教養や趣味のために自主的に行うサークル活動を支援するため、各団体に年間10万円を補助しています。
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健康増進イベントの実施:定期的にウォーキングイベントや健康測定イベントも実施し、従業員の健康増進を支援しています。ウォーキングイベントに参加した従業員からは「睡眠の質が向上した、食欲が旺盛になった、活力が湧いた」「歩きながら周囲や風景を愛でることで、行動にも心にも余裕が持てた」等のコメントが寄せられました。
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検診補助:従来の健康診断・人間ドック補助に加え、2024年度より婦人科・歯科検診補助も開始しました。(2024年度は検診補助(婦人科・歯科等)として約200万円予算計上)
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その他、スポーツジム費用補助や余暇を充実させるための旅行支援等も行っています。
尚、新規施策については定期的に社内アンケートを実施し、従業員の意見を積極的に取り入れながら検討、実施に繋げています。

